「蛇口をひねれば、いつでも水が出る。」
そう思っていませんか?
あまがみ実は、福岡に住んでいる人、または福岡への移住を考えている人は、ぜひこの「当たり前」を一度疑ってみてほしいのです
福岡は日本の中で、水不足(渇水)がもっとも起きやすい大都市のひとつです。過去には1日19時間も水が使えない状態が続いたことがあります。学校の給食で食器が使えず、自衛隊のヘリコプターが上空からダムに向かって水をまいたこともありました。



それだけの深刻な事態が、実際に起きているのです
そして2026年現在、福岡市はふたたび水不足への対応を強化しています。「まずかしこく知って、賢く備える」この記事では、わかりやすく福岡の水不足の歴史・原因・対策を解説します。
福岡は「水に弱い大都市」だった
まず、この記事でいちばん伝えたいことをひとことで言います。
福岡市は、政令指定都市(人口が多い大きな市)の中で唯一、市の中を流れる「一級河川」がない都市です。
「一級河川」とは、国が管理する大きな川のこと。東京なら利根川や多摩川、大阪なら淀川、名古屋なら木曽川がそれにあたります。



しかし福岡には、それに相当する大きな川がありません
つまり福岡は、もともと「水の蓄えが少ない地形の上に、たくさんの人が住んでいる」という、水不足が起きやすい条件が重なった都市なのです。
この事実を知るだけで、福岡の水問題を理解する第一歩になります。
なぜ福岡は水不足になりやすいのか?


理由①:一級河川がない地理的な弱点
くり返しになりますが、福岡市内には大きな川がほとんどありません。



那珂川・御笠川・多々良川などの川はありますが、どれも規模が小さく、水量も限られています
そのため、福岡の水道水のおよそ3分の1は、市外の「筑後川」から水を引いてきて使っています(残りは市内のダムや海水を淡水化した水など)。筑後川は福岡市から離れたところにある川なので、ダムや水路を使って水を運ぶ大がかりな仕組みが必要になります。



この「遠くから水を引いてくる」という弱点が、少雨のときに一気に問題になるんだ
理由②:人口が急増しているのに水源が少ない
福岡市は、2025年時点で人口約167万人。毎年約1万5,000人規模で増え続けており、全国の市区町村の中でもトップクラスの人口増加数を誇っています。



人が増えれば使う水の量も増えます
でも、水の供給量(ダムや川から得られる水)はそう簡単には増やせません。この「需要と供給のアンバランス」が、水不足を引き起こしやすい構造になっています。
理由③:雨の降り方が不安定
福岡県は梅雨や台風のときに雨がよく降りますが、空梅雨(あまり雨が降らない梅雨)や台風が来ない年は、ダムの水がみるみる減っていきます。



また近年は気候変動の影響で、「大雨か、まったく雨が降らないか」という極端な天気のパターンが増えています
以上3つの理由が重なったとき、福岡では深刻な水不足が起きてしまうのです。
【過去の事例①】1978年(昭和53年)「福岡大渇水」287日間の断水


何が起きたのか
1977年(昭和52年)の夏ごろから雨が少ない状態が続き、ダムの水がどんどん減っていきました。翌1978年の春になっても雨は降らず、干上がるダムもあったほどで、ついに福岡市水道局は「水危機宣言」を出します。



1978年5月20日から、夜9時~翌朝6時まで水が止まる「夜間断水」がスタート
しかしそれでもダムの水は回復せず、断水の時間はどんどん長くなりました。
もっとも深刻だった6月1日には、なんと1日のうち19時間も水が使えない状態になりました。わずか5時間しか水が使えないのです。



この状態が約287日間(約9ヶ月半)続いたんだ
市民の生活はどうなったか
水が使えない生活は、想像を絶するものでした。
家庭では、ポリタンクやバケツに水をためて生活するのが当たり前になりました。ポリタンクが売り切れて手に入らなくなる店も続出しました。紙皿や紙コップを使う家庭が増え、きょうだい間で同じ食器を使いまわしたりもしました。



学校では、プールの授業がほぼ中止に
給食も「食器を洗う水がない」ため、缶詰や冷凍食品が使われるようになり、お皿なしで食べる場面もありました。大学は一時的に休校になりました。
飲食店では、「トイレの大はご遠慮を」という張り紙をした店があったほどです。



廃業を余儀なくされた店もありました
高台の住宅地では水圧が落ちて水が全く出なくなる地域も多く、給水車に長い列ができました。なかには一時的に市外に引っ越す「渇水疎開」をする市民もいました。
自衛隊もこの事態に対応。陸上自衛隊の給水車が出動し、海上自衛隊の護衛艦が水を海上輸送しました。



また大阪市や神戸市からも給水車が応援に来るという、まさに「水の緊急事態」でした
その後、福岡はどう変わったか
この大渇水は、福岡市に大きな教訓をもたらしました。



市はその後、筑後川から水を引く「筑後川導水」を1983年に開始
複数の新しいダムを建設し、ダムの湖底を掘り下げて貯水量を増やしました。さらに2005年には、海水を飲み水に変える「海水淡水化センター(まみずピア)」を稼動させ、1日最大5万立方メートルの淡水を供給できる設備を整えました。



また、全国で初めて「節水型都市」を宣言し、節水を市全体で推進する取り組みが始まりました
【過去の事例②】1994年(平成6年)「平成大渇水」猛暑とのダブルパンチ





1978年の大渇水から約16年後、福岡はふたたび深刻な水不足に見舞われました
何が起きたのか
1994年は春から雨が少なく、梅雨の時期も降水量が平年の半分以下。さらに梅雨明けが早く、その後の夏は記録的な猛暑が続きました。



「空梅雨+記録的猛暑」というダブルパンチ
1983年に筑後川からの導水が始まっていたため、1978年ほどの最悪の断水にはなりませんでした。しかし、その筑後川の水量まで減少してしまったことが問題でした。
給水制限は1994年8月4日から1995年5月31日まで295日間にもわたりました。1978年の287日間をさらに上回る長さです。



制限率は最大55%にも達し、水の半分以上が使えない状態が続きました
教訓と対策
この渇水では、1978年以降に整備した「筑後川からの導水」のおかげで、給水時間内の水の供給は確保でき、給水車を出す事態にまでは至りませんでした。



しかしそれでも長期間の制限が続いたことで、新たな水資源の確保と節水型インフラの充実が急務となりました
この後、福岡市はさらにダムを増設し、漏水率(水道管から水が漏れる割合)を世界トップクラスの低さにまで改善させました。また2018年には福岡県内最大の「五ケ山ダム」が完成し、水の安定供給に大きく貢献しています。
【過去の事例③】2000年代以降も続く渇水の記録
1978年と1994年が特に有名ですが、その後も福岡では繰り返し水不足が起きています。
- 2002年(平成14年):梅雨時期の少雨により筑後川の水量が急低下。送水制限が265日間にわたり、最大55%の取水制限が行われました。
- 2006年(平成18年):冬季の異常少雨により78日間の送水制限が実施されました。
- 2026年(令和8年・現在):2025年9月以降の少雨が続き、筑後川関連ダムの貯水率が低下。2026年1月28日に「福岡市渇水対策会議」が設置され、市民に節水を呼びかけています。



このように、福岡では10年に一度ではなく、ほぼ数年おきに何らかの渇水対策が必要になっているのが現状です
【現在の状況】2026年、福岡はまた水不足に直面している
福岡市の公式サイト(2026年5月7日更新)によると、2025年9月以降の少雨により、筑後川関連ダムの貯水率が低下し続けており、市は市民に対して「さらなる節水へのご協力をお願いします」と呼びかけています。



2026年2月には福岡県が渇水対策本部を設置
これは冬場としては20年ぶりのことです。
2026年4月の節水効果は月間約46万3,000立方メートル(削減率約4%)と報告されています。



市民の節水意識が効果を出しているものの、まだ楽観できる状況ではありません
【注意点と対策】今すぐできること、もし断水になったときの備え


日常生活でできる節水の習慣
過去の大渇水で、福岡市民はさまざまな節水の知恵を生み出しました。それらは現代にも十分使えます。
お風呂まわりでは、シャワーの出しっぱなしをやめ、こまめに止めましょう。お風呂の残り水は、洗濯・掃除・庭の水やりに再利用できます。



半分再利用するだけで、1回あたり約90リットルの節水になります
台所・食器洗いでは、油汚れのひどい食器を洗う前に紙や布でふき取ってから洗うと、洗い水の量を大きく減らせます。水を流しっぱなしにせず、桶やボウルにためて洗いましょう。
歯みがき・洗面では、歯みがき中は蛇口を止めるだけで、1回あたり約12リットルの節水になります。



コップに水を入れてうがいをすることでも節水できます
トイレでは、大小のレバーを正しく使い分けることが大切。必要以上に流さないことを意識しましょう。
洗濯では、まとめ洗いを心がけ、お風呂の残り水を洗濯に使うと効果的です。
断水に備えるための「家庭の水ストック」
実際に断水が始まると、生活が大きく制限されます。福岡に住む以上、ある程度の備えをしておくことが大切です。
一般的に推奨されている備蓄量は「1人1日3リットル、最低3日分」です。
4人家族なら36リットル(2リットルのペットボトル18本分)が目安となります。



また、浴槽に水を張っておく「浴槽備蓄」も有効です
断水が始まる前に浴槽をきれいにして水を満タンにしておくだけで、トイレ・掃除・洗濯に使える生活用水を大量に確保できます。



市販のウォーターストッカー(ポリタンク)を1~2個用意しておくのもおすすめです
給水制限が始まったらどうする?
もし給水制限が始まった場合、市から情報が届きます。以下のことを心がけましょう。



制限が始まる前に、できる限り水を溜めておくこと
飲料水はペットボトルで確保し、生活用水は浴槽やバケツに蓄えます。炊飯や煮物など、水を多く使う料理は前日にまとめて作り置きするのも有効です。
また、食器を洗う水を節約するため、ラップを皿に敷いてから料理を盛り付けると、食器をほとんど汚さずに食べることができます。



1978年の大渇水時、多くの家庭で実際に使われた知恵です
ダムの貯水率をチェックする習慣を
福岡市水道局のウェブサイトでは、福岡市に関連する主要ダムの貯水率を毎日更新して公開しています。梅雨の時期や台風シーズンの後に貯水率が低いときは、その後の冬〜春に向けて水不足のリスクが高まります。ニュースや市の情報をこまめにチェックしておきましょう。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
なぜ福岡は水不足になりやすいのか? → 政令指定都市の中で唯一、市内を流れる一級河川がなく、水源が限られているから。人口急増も追い打ちをかけています。
過去にどんな水不足があったのか? → 1978年の「福岡大渇水」では287日間、最大19時間の断水が発生。自衛隊が出動し、給水車に長蛇の列ができる事態に。1994年の「平成大渇水」では295日間の給水制限が続きました。その後も数年おきに渇水が繰り返されています。
今、何をすればいいのか? → 日常の節水習慣を身につけること・水のストックを備えておくこと・ダムの貯水率情報をチェックすること。この3つを意識するだけで、万が一のときに大きな差が出ます。
【「節水」は福岡で生きる文化のひとつ】
福岡市民の1日あたりの水道使用量は約197リットル。これは日本の主要21都市の中でもっとも少ない数字です。過去の大渇水を乗り越えた福岡市民は、日常の中で自然と節水を意識する「水の文化」を育ててきたのです。
また福岡市は、漏水率(水道管から水が漏れる割合)を世界トップクラスに低くする技術を持っており、その技術はいま、世界からも注目されています。
「水不足の都市」というネガティブな側面だけでなく、「水を大切にする文化を持つ都市」というポジティブな見方もできます。
福岡への移住を考えているあなたも、福岡に住んでいるあなたも、この機会に「水と向き合う生活」を、一緒に考えてみませんか?
参考資料:福岡市水道局、福岡地区水道企業団渇水の記録、Wikipedia(昭和53-54年福岡市渇水、平成6年渇水)、福岡市公式サイト(2026年5月7日更新)




