福岡の世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」とは?

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福岡には世界遺産が2つあります。1つは前回紹介した「神宿る島」沖ノ島、そしてもう1つが今回解説する「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」です。

あまがみ

沖ノ島が「古代の祈りの島」だとすれば、こちらは「日本が近代国家に生まれ変わった証」ともいえる世界遺産です

「八幡製鉄所」や「三池炭鉱」という名前を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、世界遺産としてはどんな内容で、どこがすごいのか、意外と知らない人が多いテーマです。これらをわかりやすく解説していきます。




目次

日本が「わずか50年」で工業国家になったことを示す、世界でも珍しい世界遺産

「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は、2015年にユネスコの世界文化遺産に登録された、日本の近代工業化の歴史を物語る遺産群です。

ねこのこ

福岡県だけでなく、岩手県から鹿児島県まで全国8県11市にまたがる23の資産から構成されていて、福岡県にはそのうち「官営八幡製鐵所」関連の4資産と、「三池炭鉱・三池港」関連の3資産が含まれているぞ

この世界遺産がすごいのは、建物1つ1つが立派だから登録されたのではなく、幕末から明治後期にかけてのわずか50年余りという短期間で、日本が西洋以外の国として初めて自力で産業革命を成し遂げたという「歴史のストーリー」全体が評価されたという点です。

鎖国をしていた国が、ほんの一世代ほどの時間で鉄を作り、船を造り、石炭を掘る技術を西洋から学び取り、自分たちのものにしてしまった…

あまがみ

その奇跡のようなスピード感そのものが、世界に認められた価値なのです

なぜこの遺産群が世界遺産に選ばれたのか

ではなぜ、工場や炭鉱の跡地が世界遺産として認められたのでしょうか。

さくら

理由は大きく2つあります

理由1:西洋の技術が非西洋の国に初めて成功裏に伝わった証拠だから

19世紀のヨーロッパで起きた産業革命は、やがて世界中に広まっていきましたが、西洋以外の国がこれを自分の力で成功させた例は、当時ほとんどありませんでした。

あまがみ

日本はその数少ない成功例であり、しかも非常に短い期間でやってのけた点が世界的に珍しいとされています

この産業化の流れは、大きく3つの段階に分けられます。

  1. 試行錯誤の時代(1850年代〜1860年代):鎖国体制の中、オランダの書物を頼りに大砲づくりや洋式船づくりに挑戦した時期
  2. 西洋技術の直接導入の時代:実際に外国人技師を招いたり、西洋から機械や設計図を輸入したりして、技術を運用しながら学んだ時期
  3. 産業化の完成の時代(〜1910年):自国の技術者を育て、自分たちの手で本格的な工場や炭鉱を稼働させた時期
さくら

福岡県にある官営八幡製鐵所や三池炭鉱は、まさにこの「完成の時代」を象徴する施設です




理由2:「製鉄・製鋼」「造船」「石炭産業」がお互いに支え合う関係になっているから

もう1つの理由は、この世界遺産が単独の工場ではなく、3つの産業分野がセットで評価されているという点です。

あまがみ

少し考えるとわかりやすいのですが、船を造るには鉄が必要です

鉄を作るには大量の石炭が必要です。そして船が増えれば、その燃料としてさらに石炭が必要になります。石炭を掘るための坑道や機械を作るにも、また鉄が必要になります。

ねこのこ

つまり、製鉄・造船・石炭産業はぐるぐると支え合う関係になっていて、どれか1つだけが発展しても近代化は実現できなかったんだ

この「3つの産業が相乗効果を発揮しながら発展していった」という、目には見えにくい歴史のつながりこそが、この世界遺産の本当の価値(専門的には「顕著な普遍的価値」と呼ばれます)だとされています。

福岡県にある2つの構成資産をくわしく紹介

ここからは、実際に福岡県内にある構成資産を具体的に見ていきましょう。

さくら

福岡県の資産は大きく「官営八幡製鐵所」(北九州市・中間市)と「三池炭鉱・三池港」(大牟田市)の2グループに分かれます

その1:官営八幡製鐵所(北九州市・中間市)

官営八幡製鐵所は、1901年に操業を開始した、日本で最初の本格的な銑鋼一貫製鉄所(鉄鉱石から鋼材まで一貫して作れる製鉄所)です。

あまがみ

日本最大の石炭の産地だった筑豊炭田に近かったことや、地元の熱心な誘致活動が実を結び、八幡の地に建設が決まりました

建設にあたってはドイツの最新技術が導入されましたが、当初は計画通りに生産ができず、苦戦が続きました。それでも日本の風土に合うように高炉の改良や操業方法の工夫を重ね、操業開始からおよそ10年で軌道に乗せることに成功しました。

さくら

この「輸入した技術をそのまま使うのではなく、自分たちの手で改良して使いこなした」という過程こそが、日本の産業化の特徴としてとても重要視されています

世界遺産の構成資産としては、次の4つが登録されています。

  • 旧本事務所:1899年に建てられた赤レンガ造りの建物。製鐵所が創業する2年も前に建設され、長官室や技監室などが置かれた、いわば製鐵所の「司令塔」でした。中央にドームをもつ左右対称のデザインで、日本と西洋の建築様式が融合しているのが特徴です。
  • 修繕工場:1900年にドイツの会社の設計と鋼材で建てられた、現存する日本最古の鉄骨建築物です。製鐵所で使う機械の修繕や部品づくりを行うための施設で、なんと100年以上たった今も現役の工場として稼働しています。
  • 旧鍛冶工場:修繕工場と同じくドイツの設計・鋼材で建てられた建物で、製鐵所建設に必要な大型のスパナやハンマーなどの鍛造品を作っていました。現在は史料室として使われています。
  • 遠賀川水源地ポンプ室:製鐵所の拡張にともなって工業用水が不足したため、八幡から11.4km離れた遠賀川のほとりに造られたポンプ施設です。イギリスから輸入した蒸気式ポンプが使われ、「近代水道の父」と呼ばれる中島鋭治が送水システムを設計しました。こちらも今なお現役で稼働しており、製鉄所に必要な工業用水の大半を供給し続けています。

これら4つの資産は、いずれも現在も操業中の施設の敷地内にあるため内部を見学することはできませんが、北九州市が整備した眺望スペースから旧本事務所の外観を眺めたり、世界遺産ビジターセンターでジオラマや映像展示を見学したりすることができます。




その2:三池炭鉱・三池港(大牟田市)

もう1つの構成資産が、大牟田市にある三池炭鉱関連の施設です。三池炭鉱の歴史は意外と古く、室町時代の1469年ごろ、地元の農夫が焚き火の中で燃える石(石炭)を見つけたという記録まで残っています。

ねこのこ

明治時代に入ると官営化され、1889年には三井財閥に払い下げられて、本格的な近代化が進んでいったんだ

福岡県大牟田市にある構成資産は次の3つです。

  • 宮原坑(みやのはらこう):三井が最初に独自開発した坑口で、1898年から出炭を開始しました。高さ約22メートルの第二竪坑櫓は、現存する鋼鉄製の坑口櫓としては日本最古とされています。赤レンガの巻揚機室には、当時使われていた大型の巻揚機が今も残されており、無料のガイドツアーで見学することができます。
  • 三池炭鉱専用鉄道敷跡:宮原坑をはじめとする各坑口から掘り出した石炭を、港まで効率よく運ぶために敷かれた鉄道の跡です。重い石炭を運ぶために坂道をできるだけ減らそうと、高い場所は土地を削り、低い場所は盛り土をするなど、地形そのものを改造して線路を通したという徹底ぶりが特徴です。
  • 三池港:1908年に開港した、国内最大級の石炭積み出し港です。有明海は潮の満ち引きの差がとても大きいため、港の水位を一定に保つための「閘門(こうもん)」という仕組みが今も現役で稼働しています。1月と11月には、航路から閘門を通って夕日が一直線に沈む「光の航路」と呼ばれる絶景が見られることでも知られています。

なお、お隣の熊本県荒尾市にある「万田坑」も同じ三池炭鉱グループの坑口ですが、こちらは熊本県側の構成資産になります。宮原坑から専用鉄道で石炭が運ばれ、三池港から船で全国・世界へと積み出されていく…

さくら

大牟田エリアでは、この採掘から輸送、出荷までの一連の流れをたどりながら見学できることが大きな魅力です

共通点:「現役で稼働している世界遺産」という珍しさ

官営八幡製鐵所の修繕工場や遠賀川水源地ポンプ室、三池港の閘門のように、福岡県の構成資産には今も実際に使われている「稼働中の世界遺産」が複数含まれています。

さくら

世界遺産というと「古い遺跡」というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、23の構成資産のうち8つが現役で稼働中という点は、世界的に見てもかなり珍しい特徴です

古いだけでなく、今も現役で社会の役に立っているからこそ、福岡県の産業遺産はより一層特別な存在といえるでしょう。




まとめ

「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は、幕末から明治後期にかけてのわずか50年余りで、日本が西洋以外の国として初めて自力で産業革命を成し遂げたことを物語る世界遺産です。

福岡県には、日本初の本格的な銑鋼一貫製鉄所である「官営八幡製鐵所」関連の4資産と、日本の近代化をエネルギー面で支えた「三池炭鉱・三池港」関連の3資産という、合わせて7つの構成資産があります。製鉄・造船・石炭産業がお互いに支え合いながら発展していった歴史そのものが評価された、という点が大きなポイントでした。

福岡県には、自然崇拝と祈りの歴史を伝える「沖ノ島」と、人の手によるものづくりの歴史を伝える「明治日本の産業革命遺産」という、性格のまったく異なる2つの世界遺産があります。移住して福岡のことをもっと知りたいと思ったら、ぜひ北九州市や大牟田市にも足を運んで、日本の近代化を支えた現場の空気を感じてみてください。

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